EMMA (以下 E) : まずは、HideoくんとAcidの出会いとかって?
HIDEO KOBAYASHI (以下 H) : 1997年にrainbow2000に出た時に、僕らの前がHardfloorだったんですよ。 実際にHardfloorを見たのはそのときが初めてだったんですね。 レコードとかCDとかではもちろん聴いてたんですけど、ライブは初めてで。僕らはミックさんとライブやって、その後がHardfloorのライブだったんですよ。 そのライブで実際にTB-303が2台あってTR-909が動いてて、ていう、それをもうそのまま実体験して、今まで聴いてきたものを、そのまま本物で見て。 それが出会いですかね。ある意味、あの時のままで止まってるんですよね。 だから僕にとってAcidって言ったら結構、Hardfloorなんですよ。
E : DJ PIERREとかじゃなくて?
H : ピエール先生の方が後から知ったんですよ。最初はHardfloor。
E : シカゴから始まってNYの人達もAcid Houseをやったりとか、そういうのはもうどちらかというと黒人の、、、
H : そう、いわゆる壊れた303ですよね。
E : そうそう。
H : だからどっちかっていうとHardfloorなんですよ。 それで、その頃も曲は作ってたんです。MS-404っていう機械を使って、それっぽい事のマネはしてました。 フォルタメントがかかるやつで、そういう要素を入れたりとか。 ディープハウスを作る時も、わりとAcidぽい、303のエッセンスをちょこちょこ入れてきたなあ、と思いますね、自分の人生の中で。
E : つまり定番だということ?
H : いわゆる303っていうスライドしてるフレーズを出して、そればっかりじゃないんですけど、音色としてというか、スパイスとしてのAcidっていうのは、ずっと触れてきていたので。 でも今回はきちんと『Acidです』っていう作品にして、そういうことは今までそんなにないです。
E : Hideoくんの場合どちらかというと、テクノアプローチのAcidからの、 そういう入り口なんですね。
H : 最初はそうかもしれないですね。Acidハウスっていうよりは。
E : 今回、このAcid縛りでの話が出た時、最初ちょっと困ってたじゃない?
H : そうですね。いわゆる303にするのか、ピエール的なものにするのか迷いましたね。 ピエール先生の曲をリミックスしたやつもAcid1とか、かけてて。2、3年前にヒットしたやつとか。でもそれを聴いた若い人たちが、これトランスですよね?って。外でやった時なんですけど、トランスに聴こえたらしくて。 あ、Acid知らないんだ、、、。
E : そうだね、作り手としてはシンセの中でもベースの音だとか、観念みたいなものがあるけど、聴く人たちは、音をカタマリで聴くわけだから、例えばシンセがワーってなってるからこれはトランスだとか、その時のテンションの具合でも違って感じたり。
H : トランスに聞こえるんだ!?って、びっくりしたんだよね。 だったらたまにはAcidって単語を出していきたいな、と思ってたんですね。
E : じゃあ、いい機会ではあったと、、、。
H : 今回ズコンときたんで。で、スタジオ作業になった、という。
E : 思い起こすと、最初に電話で打合せして、スタジオに入って。 その時って作ったんでしたっけ?
H : ドラムとか全体的な雰囲気をどうしようって、話をしたと思うんですよ。
E : テッキーな感じのものは残そう、と。
H : とにかくシンプルにいきましょう、短めに。
E : そうそうそれそれ。それ重要でしたね。 4分台の曲目指そうって。それもうアスリートだよ!笑
H : あと音数を少なくしようというのがテーマで。 シンプルなキックとスネアとクラップを使ってね。
E : あのタイミングでのクラップってのが、肝ですもんね。2回目で組み立てて、3回目ぐらいで形になった。
H : ハードウェアのベースラインは初日に録ったんですよ。
E : そうだ初日に録って、終わったー!って拍手して、持ち帰って聴いてみたら録音できてなかった、という。笑
H : それでやり直したんですよね。あれが良かった。納得いくやつができたんで。
E : あの後ベースラインとかを全部エディットしていって。メールでやりとりして、ファイル送りあって。あの後ってAcidの音とかって?
H : やってますよ。最近では、18分ぐらいのアートフィルムに音楽乗せたんですけど、そこ思いっきり909と303でやったりとか。 あとは、さらに勉強しちゃったりとかして。ある人の家に行ったら303の実機があって。ちょっと欲しくなっちゃったりとかね。
E : 欲しくなっちゃいますよね。
H : すごい高いらしいですよ。
E : 程度にもよるけど15〜18万。下がんないでしょうね、多分。
H : そうですね。クローン機とか色々ありますけど、どうなんですか?
E : クローンはクローンでいいと思うんですけど。でもやっぱりあの壊れた感は出ないと思いますね。壊れた感がやっぱ、違う。
クローン機は新品12万で中古7万とか? だったらがんばって本物買った方がいいですよね。直せるところがあれば。直せなかったら飾るしかないけど。
H : 本物でやるか、あとはソフトもけっこう出てますからね。 僕、意外とソフトでも持ってて。けっこう昔にリバースって低価格ソフトがあったんですけど、909とTR-808と303が2台入ってるやつで。今iphoneかなんかでもあるらしいんですけど。当時それが出た衝撃が忘れられなくて、未だに古いiMacにリバースだけつっこんでる。
E : リバース出た時はたしかにビックリしました。
H : やった!これで出来る!と。
E : リバースのあの値段で出来ることって、当時ではすごかったですからね。
H : そうやって考えてみると意外とAcidに関するものはずっと何かしら持ってたけど、今回初めて正式に作りました。
E : かけてます?
H : かけてますよ。インドネシアでもかけたり。
E : フロアの反応もいいし。ちょっと変わってるじゃないですか。ベースラインがあのベースラインってのも、暗い曲なのか明るい曲なのか全然わかんないっていうか。どっちにもいける、という。
H : はっとさせられる曲だし、埋もれないですよね。
E : 埋もれないと思いますよ。 かなり個性的な、リフもそうですけど。コンセプトが個性的だから。
H : 似たものがない感がありますね。
E : ないでしょうね、これはね。 よく聴くと、盛り上がるところもそんなにないはずなんだけど。笑 でもわりと大きめに見せてるって部分が、狙いどおりでいいですよね。
H : 今でもいろんなジャンルに303っぽい音が入って乗っかってる曲が出てますけど、作り込んだドラマティックな盛り上がりとブレイクダウンで、やり過ぎなオーバープロデュースな感じの曲が多いじゃないですか。 そうじゃなくて当初の、シンプルで短くてっていう狙いどおりの曲ができてる。 それはもうピエール先生のお墨付きを頂いてるっていうことでも。
E : 彼にかけてもらえてるってのも嬉しいし、誰よりも彼に認めてもらえるというのは、やった甲斐がある感じ。
H : 303壊した人ですもんね。笑
E : やっぱ今考えてもすごいと思いますね、ピエールは。自分で考えて新しいことをやるっていうのが。最先端のものをプレイして最先端を気取るのとは次元が違う。それは新しいとはいわない。
H : ちゃんとやってますもんね。ブレるブレないってあんまり好きな表現じゃないけど、彼はブレてないですよね。 三つ子の魂百までは やってますよね。
E : トッドテリーも似たタイプだと思うんですけど、ミックスのバランスで個性出してる曲って、昔けっこうあったじゃないですか。キックやけに強いとか。 JOVONNみたいな。UKの人にはあんまりいないけど。
H : あれは名刺代わりになってますよね。
E : なってますよ。あれはなんですかね?笑 NYの人達は一般的なバランスだと思うんですけど。たとえばシカゴにしてもデトロイトにしても、なんて言ったらいいか、何なんだろう、あれ?
H : ああにしかならないんですよきっと。それがまた味になってるんですよね。
E : キックだけでこの人!とか、難しい世界になっちゃったけど。 今、プログレッシブハウスってどこを指していいかわかんないけど、かっこいい系のテックハウスとかテクノとかでオーバープロデュースみたいな、抜けてからブレイクからの、アレがやたら長すぎたりとか、巨大な箱ならまだしも。日本の場合大きなクラブあんまりないところで、流行ってるからそれをかけてしまっている、それで空間が台無しになってることってありません?
H : 自分がプレイしてて、やばいこのブレイク2分あるんだ、なにしよう? この箱でこのブレイクはマズかったな、なんか入れちゃお、みたいな。 ありますね。
E : すごい二分化してて。僕にとって。自分のDJに使いたいくらいのテンションのもので、パーツになるものが少ない、曲として完成されすぎちゃって。 ちょっと言葉がおかしいけど、テクノなのにマスターズアットワークみたいな作り方しちゃってる、みたいな。
H : そうなんですよね。自分の作品でもそれを感じてて。 曲作りの行為が簡単な時代になってて、だから作ろうと思えば一日で出来ちゃうんですけど、何日かやってる間にどんどん完成されたものになっちゃって、最初の荒削りのところが失くなっちゃって。 昔だったら全部シンセをいっぺんに鳴らして録って、やり直す、でも全然荒い感じだったっていう、あの作り方が出来ない環境になっちゃったんですよね、たぶん。
E : そうですよね。
H : 昔はほら、ミキサーがあっち向いたりこっち向いたりで、セーブで再現できなかったから。今は全部記憶してて昨日の続きからまたスタートできちゃうから、どこまでもオーバープロデュースが続いちゃうんですよ。 でも今回はあえてそれをやらずに勢いだけで作ったっていう。
E : パーツになるもんね、これはね。
H : あと音楽のパワーが全然違う。
E : そう。
H : 今と昔の作り方の違いがもうひとつあって、昔は出来上がってからキック変えてみようかって、で、こっちの方がしっくりくるねって言って、それで作品にすることがよくあったんです。 でも最近ってキックでも何でも出来過ぎてるから、キックに合わせて作っていけちゃうじゃないですか?それでセーブして明日からまたスタートみたいな。
E : それって誰かに誘導されてるような?
H : そう。だから一見テクノっぽいものだとかハウスっぽいものが出来てる感じはするけど、あとでキックだけひっくり返したみたいな、今で言う乱暴な作り方が失くなってきてるから、それって何ていうか力の加減が、たとえばつまんない車乗ってる、みたいな。便利になりすぎてて。
E なるほどね、便利な、実用的な。プリウス、ゴルフ。
H : 箱で鳴らしたらそれなりの音がするし、それなりに盛り上がるし、エラーもないから。昔はもっと狂ってた、と思うんですよね。
E : じゃあhideoくんはこれからどこに行くの?何処を目指します? 便利な時代だから、再現できたりとか。物を作る上では安心感がありますよね。でもその安心感がハングリーさを失わせてるのかなって。 しかもそのハングリーさが、売れたいとか、そういう違う方向に変化してしまって、別にEDMがどうってことじゃないんだけど、
H : 大舞台に立ちたい、みたいな。 手をみんなの前で挙げて、きゃーって、みんなこっち向いてって。笑
E そうそうそう。くだらない方向にどうしてもね、行きがちだし。DJ機材周りを含めても全部そうですよね。トラクターが悪いわけじゃないけど、アナログがいいって言ってるわけじゃなくて、要は全部が簡単になりすぎたから、アイデアをそこにいれようっていうか、303で曲作ってみようぜっていう、ピエールのアイデアまでは辿り着かないような気がする。発見とか発明みたいなところまでは辿り着けないような。
H : 僕結構シンセ歴長いんですけど、高校生ぐらいからずっとシンセいじってて。シンセの進化って90年代前半で止まってて、あとはそれをシュミレートしてるかしてないか、それはソフトでできていろんなエフェクターも付いてるからいい音に聴こえるけど、実際に出てる音って90年代前半で終わってるんですよね。
E : シンセって、音を作ってそれを鳴らす楽器じゃないですか。 それ以降のテクノロジーの進化って、本当の意味での進化みたいなのって、レコーディング技術の進化ではなくて、レコーダの幅とか速さ、録音できるその、なんていうか、
H : 作業効率?
E : そう、新しいところに目が向かないのも当然だなあって。昔だったら古い曲を四つ打ちにするだけでも、24時間かけて揃えてエディットしてなんてやってたのに、今はそれが一瞬でできちゃうわけだから。 混ぜることも本当はDJの目であって、2曲を混ぜただけでDJ的、それがある程度クオリティ関係なしにクリエイティブだったはずが、混ぜることすらクリエイティブじゃなくなったんですよね。混ぜること自体が簡単になっちゃったから。
H : なので、僕は今後ですね、最先端のコンピューターの技術と、古い、といっても古いハードのシンセを使うという意味ではなくて、なんていうのかな、
E : え、アナログシンセに戻る気はない?
H : それも使うんですけど、大事にしようと思ってるのはその組み合わせ方で。たとえばミックスダウンをアナログ卓でやりたいんですよね。 入ってくる信号はアナログなんだけど、それをプラグインでセーブできたりとか。最新のプラグインで。そういうミキサーがあるんですよ。 そういう風にしていきたいですよね。 ミックスも指できちんとやるんだけど、デジタル信号じゃなくてアナログ信号をいじりたい。要するにアナログミキサーかデジタルミキサーかっていうことなんですけど、デジタルミキサーは使いたくないんですよ。 その両方が使えるハイブリッドのところにいきたいです。どうしてかっていうと、アナログ信号って毎回キックが鳴ってたとしたら、毎回必ず音が違うんですよね。
E : 毎回違うんですよね。
H : その違うとこが気持ちいいとこなんですよね。
E : そこ。レコーダーまわす時も1回目じゃなくて3回目だとか。 たいがい1回目がいいって、よく言いますけどね。
H : じゃあ現実的に何やってるかっていうと、たとえば909は生で鳴らしてますね。
E : ドラムマシーンこそソフトシンセでいいやと思っちゃってたけど。
H : いやそれが、たとえば909だと、後でどうせ加工はしてるんですけど、オーディオとして録るじゃないですか。録った時に1コ1コのキックの形が違うんですよ。
E : ああ、波形がね。
H : よく聴けば毎回違う音なんですよね。
E : それをよく聴いてるんだ?あの波形1コ1コ違うやつ、1コ1コ聴きます?
H : 聴けばタイミングもちょっとずれてるし、でも全体通せばBPM120〜125の中に収まってるんだけど、ちょっとずれてるし。細かく見ればね。 でもそのずれてるところに気持ちよさがあって。 それはターンテーブルとトラクターの決定的な違いとしても表れてると思ってて。ターンテーブルって結局、完全に物理的なものじゃないですか。しかもモーターが回ってるわけだから、いくら精度が良くても揺れてて。 でもトラクターは絶対揺れてないんですよ。コンピューターの内部クロックに合わせて全部クォンタイズしてるから122.22だったら122.22なんですよね。 じゃあそれが果たして気持ちいいか?って、人間、動物として、揺れてる方に快感を得るのが確実なんですよ。 それをふまえて、作品を作る時もDJする時も、最先端の技術と人間本来の揺らぎの快感っていうのを考えながらやっていきたいな、と。 だって本当ならキック1コで踊れる、909鳴らしてたら踊れるはずなんです。 でもコンピューターで鳴らしてたら音響としてしか聞こえないですよね。 その辺を散りばめて色々やっていきたいな、と。
E : 最近のテクノロジーの進化っていうのは、ルームシュミレート、リバーブ系、あれがものすごい。音の中では一番進化してると思う。細かい所まで制御できて、高額なやつは考えられないぐらいいろんなことができる。 けど、昔からのスプリングリバーブ全開の方が気持ちいい世界もあったりするわけです。細かく境界の鳴りをシュミレーションしたものも もちろんいいんだけど、スプリングリバーブってものが特種だからだけど、人工的なあの気持ちよさってシュミレートできなかったりするじゃないですか。
H : どうしてかっていうと、跳ね返りが毎回違うからですよね。
E : そこの部分をいいとこだけ取ってやれたらいいけど。 今度ミックスが難しくなるというか。どれを立たせて、どれを引っ込ませて、とか。
H : なので、あんまり頑張んないようにしようと思ってるんですよね。 ラフで勢いでやれたらって。
E : そこ。 hideoくんの曲の特徴としてね、僕一番好きな部分はそこなんですよ。 なんていうか、すごく言いづらいけど、日本人の特色として、音楽だけに関わらずどの分野でも『繊細さ』 みたいなものがいつもテーマとして出てくると思うんですけど、 僕アレあんまり好きじゃなくて。僕の好みとしてね。スポーツでも何でも。好きじゃなくて。 欧米の特徴ではないんですよ、荒削りなかっこよさとかは音楽の世界ではいつも在るものだと思うんですね。特にダンスミュージックだと捨てられない部分だと思ってて。hideoくんからはそれを感じるから好きなんですね。意識的なのかどうかはわからないんだけど。なかなかいない、日本人でそうゆう部分まで表現出来る人って。黒人とタフネスさを比較したって、黒人のタフネスって好きだしカッコイイけど、そういうのは僕らでも全然変わんないと思いますよ、本当はね。日本人は逃げがちだと思うんです。
H : 繊細、緻密、綺麗な感じに逃げがち。
E : そういう繊細とか、それが僕はもともと好みじゃないから、引っかかるんですよ、ガツっと。そこがこれから一番必要とされる部分じゃないかな。 どうしてかというと、日本の子供っぽい文化が大嫌い、アニメとかクールジャパンとか、なんでこんなに子供っぽいんだろう日本、って、答えは出なかったんだけど。世界と、特に成熟した世界と勝負するなら、もちろん繊細じゃなきゃいけないんだけど、そういう繊細な部分ってトップレベルの人間なら誰しもが持ってるはずで、なきゃおかしなわけで。 同時にパワフルな部分をね、両方兼ね備えていないと難しいと思うんですよ。
H : 僕は多分、その辺の感覚って、黒人と音楽を作る機会が多かったんで。
E : 何が違うと思います?具体的に。
H : 勢いですよね。笑 日本人だったら8小節ごとに何か変わらなきゃいけないみたいな、型にハメたがるというか、引き出しの形が揃ってる感じがするんですけど、 彼らって、『あ、ここ!』って言うんです、目つぶって。 え? そこ!? みたいな。5小節目のところで変えろ、とかね。 その場で降ってきたインスピレーションで、ここ!っていうのを、一緒にやってて面白いなって思ったんで。それを取り入れるようにしてます。
E : 構築して曲を作る面白さは多々あるじゃないですか。 それとは違う、ラフに作っていく、ライブ的にひらめき重視に作っていくってことですよね。ダンスミュージックは確かにそっちの方が僕もいいと思う。 でもどっかでなんか心配なんでしょうね。
H : フェミ・クティのライブを観に行ったんですよね。フェミ・クティって息子の方ですよね?フェミ・クティと更にその子供が出てたライブがあって、サンフランシスコで。
E : 王族たちが来たわけですね?
H : そう王族がワーって来て。その時に、喋ってる内容は精神的なことだったりしてそれはあんまり好みじゃないなと思ったんですけど。音楽の話もして、彼らからこう、音楽って自由なんだよってメッセージが出てきて。それが最後に残ったんですよね。 そうか音楽って自由でいいんだ、と。 8小節で何か来ないといけないとか、キックがでかいとか小さいとか、ハイハットは右だ左だとか、そういうのってどうでもいいことで。 そもそも音楽って自由じゃんって。テクノの形、ハウスの形にハメなきゃいけないとかじゃなくて、言ってみれば快楽主義なんですけど、その時自分が気持ち良ければいいし、お客さんもそれを共有できるのがDJとフロアの関係だと思うし。 自由でいいっていうメッセージが、自分の中にポーンと入ったんですよ。 それでその後にクラフトワークのコンサート行って。 そしたら、それはそれで、何やってるかわかんない白髪のおじさん達がいて。 明らかにこういう白いの、黒さは全然なくて。 白い部分と黒い部分の両方を体験できたことで、技術的に何か学んだとか、理論的に何か、とかでなくメッセージをポーンと入れられて。 それを自分の経験として味として生かしていけたらなあって。 緻密に作ることもあるけど、忘れちゃいけないのは、音楽は自由だ、っていう。 どこでキックが抜けようとキック入ってなかろうと別にいいんだよ、っていう。
E : hideoくんの場合ピアノも弾けるしさ、プレイヤーとしての側面もあるじゃないですか?それを封印しながら曲作るって、想像すると不思議な部分があるんですよね。僕なんかからすると。弾ける人ってもっとすごく、なんていうか。 逆にフランキー(ナックルズ)みたいに、弾けないから音楽ってものをああいう形で作って。あれは裏返しのような気もするのね。弾けないからこそああいうの作りたいんだなあって。弾けるからこそ弾かないようにするって、なんかこう、抜けるんだけど抜かない、いつでも準備できてるんだけど、その日本刀を抜かない、みたいな。 そのカッコよさでビシバシやられる感じってのは、いいですわ。どうしても弾けるようになると弾いちゃうじゃん?
H : 新境地にいけないですよね。自分の持ってる技じゃない、テクニックじゃない部分を追求していかないと。
E : 日々精進だなあ。では、ナガノキッチンよりも もっと音楽寄りというか、メロディーが沢山あって、popsにも聴こえちゃうようなものに興味はないですか?ダンスミュージックじゃなくても。
H : UKUMORI TOMOMIとやってるやつはキーボードいれたりとかメロとかも書いてるんですよ。
E : ううん、それもそうですけど、それはプロデュースじゃないですか。 自分自身の、たとえば自分名義でね、featuringUKUMORI TOMOMIでもいいしfeaturing INDIAでもいい、なんかそういうので。 POPな部分ってすごく大事で、しっかりしたメインストリームがあってこそのアンダーグラウンドだと思うんですよ。すごく大事です。
H : それはちょっとやろうとしてて、今。 ボーカルの子と組んで、最初からハウスを作るんじゃなくて、テンポは似た感じなんだけど、もうちょっとPOPな感じで別ミックスでハウスにする、みたいなのはやろうと思ってて。 まず一番大事なのはメロディー。メロディーラインと、あとは詞も大事で、それは大切にしていかなきゃいけないな、と。
E : ぜひやってほしい。
H : 意外と僕、ジュディオングとか聴いて泣いてるんで。
E : マジで?笑 ジュディで泣く?
H : そんな一面もあるんで、popsをはなから否定してるわけじゃないし、 筒美京平最高!みたいな、そんな感じもあるんで。 音楽性のしっかりしたもの、それはそれでやっていきたいと思いますね。
E : 20年近くもミュージックビジネスに関わってるけど。ハウスクラシックになったりならなかったり、テクノクラシックになったりならなかったり。でも、 やっぱりいいものは残りますね。その当時もてはやされたものでも、ああ?ってものは案の定、残ってない。 メロディのいいボーカルものは いつの時代もニューミックスが出て、なんだかんだそれなりに人気出てますもんね。 AcidはAcidでいいんですけど。しっかりとしたメインストリームが日本に無いのは、まずいなって思いますね。
H : みんな、どんぐりの背比べ的な、垢抜けないとこにいますよね。これでしょう!っていうのが無くて。 それを表してるのが、たとえばデトロイトテクノだとかシカゴハウスとかNYハウスとか、じゃあ日本にあるか?って。東京ナントカみたいのがあるかというとないし。渋谷系ぐらいですよね。 あれってぜんぶ都市名じゃないですか?トーキョーは無いですもんね。って考えると、クラブミュージックに関しては、渋谷でじゃあ何が起きたのか。30年後40年後の渋谷で何があったのかって。新宿のジャズってあったじゃないですか。ジャズ喫茶。
E : たしかに。
H : ジャズ喫茶とか、銀座のブルースとか、昭和30年代戦後の復興の時に水商売の人達ががんばってやってきたような。それに匹敵するような渋谷ハウスがあるのか、西麻布ハウスがあったのかっていうと、
E : 全くない。どのジャンルも全滅。降参。
H : だからまだまだこれからだと思うんですよ。諦める必要も、嘆く必要もなくて、まだ無いだけで。これからやったらいい。
E : それがね、繊細な方向っていうのが納得いかない。 そういう売りで作られちゃうのがなんか、ちょっと。
H : トーキョーだったらまあ、どうしても繊細な感じになりがちですよね。
E : 日本人ってそんなに繊細かなあ?
H : 繊細だと思いますよ。 ミックスがちょっとずれただけでブーブー言うじゃないですか?笑 針なんか飛ぼうもんなら怒られちゃったりして。 そんなの海外の人たちは気にしないですから。
E : 確かにね。そう考えると早めにそういう風になってくれたらいいな。
H : カップルで楽しむなり友達と遊ぶなり。 ロンドンとかは誰もこっち向いてないからびっくりしますよ。まあそれはそれで。外国はほとんどそうですね。
E : アジアは見ますね、DJブース。 ライブっていうか、コンサートって感じがあるんだろうね。
H : そもそもクラブというものを特別視し過ぎてる。
E : 日本ってほら、普段の生活から音楽と密接に関わってる人って少ないじゃないですか。沖縄とか、島の人とかは別だけど。そこなんじゃないかなって。
H : 敷居があるんですよ。
E : その敷居が『憧れ』とかそういうのが強すぎちゃって、それを超えると先生、神様、アイドル、そうなっちゃうからなあ。
H : 向こうは飲みに行けば普通にDJがいるじゃないですか。もしくはバンドやってたり。あ、やってんのねって、別に見なくても聴いてれば心地良いか良くないかわかるだろうし。一緒に飲みに行った仲間と話をすることとか、そっちの方が大事なわけで。大事なのは誰がやってるか、じゃなくて、いい音楽がかかってるかで。 だけど日本はとりあえず、誰がやってるから行くみたいな。いい音楽かかってるから行こうよ、じゃなくて、今日は誰がやってるから行こうみたいな、コンサート的な感覚ってのは残ってると思うんで。
E : 遅れてると思いますよ、その感覚がね。 お店側が無言でそうやって誘導してたり、いいとこに連れてってあげてるっていう感覚がないですもんね、今。傍観者的な。 大変なのはわかるけど、見方変えれば全然変わってくるんだけど。
H : いい音楽をきちっとかけられるDJばっかり集めてやったらいいんだろうな。 どんどんどんどんエスカレートして、破滅に向かってる感はありますよね。
E : やってる側も飽きちゃってるし、遊びに来てる側も飽きちゃってるから。 本来だったら壊した後にも何か残るはずなんだけど、何も残ってないのが数年続いちゃってるから。すごく、過渡期なんでしょうね。
H : 受け入れざるを得ない現実、というか。 これを一度通り過ぎないと新しい時代には行けないな、と。
E : そういう意味も込めて今回コンピレーションをリリースすることを決めたんですけど。ひとつ爆弾投下じゃないけど、なんか今おもしろくないな、っていうところからhideoくんに話をして。 どうです? もしこれPart2があったらやりますか?
H : むしろもう準備してますから。色々研究してますし。
E : じゃあ、ちょっと次の課題を。
H : たまに課題でやっていくのも面白いですね。今回すごい楽しかったんで。 また参加させてもらえるんだったら、もう一回EMMAさんと作りたいなって。 勢いでいい感じを。確かめたいんですよね、これでいいのかって。 自由なんだっていう、その答えを探しに行きたいですね。 Acidは永遠のテーマだと思うんで。
E : 僕も永遠のテーマだと思ってるんですよ。
H : ぜひシリーズ化してもらって。寅さん並みに。
The end EMMA×Hideo